五色ヶ原の森:ガイドツアーで深まる自然体験と環境保護
ガイドと共に歩む、五感で感じる森の物語
エコツーリズム大賞に輝く森への期待と戸惑い
平湯の地は、上高地へ向かう岐阜側の玄関口として、多くの旅人に利用されています。筆者も取材でこの地を訪れるたびに、次に訪れるべき場所として五色ヶ原の森を勧められていました。その存在自体は知っていたものの、この森への立ち入りには、認定ガイドによる有料ツアーへの参加が必須であり、定められたコースをガイドと共に歩むというルールがあったため、これまで訪れる機会がありませんでした。しかし、環境省のエコツーリズム大賞を三度も受賞しているという事実に触れ、その理由を自らの足で確かめたいという思いが募りました。今回、山と溪谷オンライン編集部の丸山瑞貴さん、そして中部山岳国立公園奥飛騨ビジターセンターで働く友人である山本さよ子さんと共に、認定ガイドの渡邉慶彦さんの案内で「シラビソショートコース」を歩くことになりました。山歩きへの期待が高まる一方で、なぜ有料ツアーでなければならないのかという素朴な疑問も抱えていました。取材の日程を決めるにあたり、希少なオオヤマレンゲの開花時期を狙うのが最善と考えましたが、登山口へと続く林道の脇で、意外にも早くその美しい花に出会うことができました。「わあ、きれい!」と、甘い香りを放つ白い花に思わず足を止めましたが、まだツアーは始まっていないため、数枚の写真を撮るにとどめ、その場を後にしました。
森が語る9000年の歴史:溶岩が育んだ独自の生態系
受付を終え、森へと向かう途中、乗鞍神社の前を通りかかりました。乗鞍岳の山頂、剣ヶ峰に鎮座する本宮の里宮であると聞き、「え?ここに里宮があるのですか?」と、思わず聞き返してしまいました。乗鞍岳と聞けば、バスで標高2702mの畳平まで行ける山という印象が強く、人々が神体山として信仰してきた歴史については、ほとんど知りませんでした。この森で特に印象に残ったのは、シラビソの樹液の香りです。指につけると、まるで木の家に入ったかのような豊かな森の香りが広がりました。「この香りを家に持ち帰れたらいいのに!」と、手元のメモ帳にまで樹液をこすりつけました。花や景色をただ眺めるだけでなく、香りや手触りまで、五感で森を味わう貴重な時間でした。このような体験ができるのも、ガイドツアーならではの魅力です。登山口から森へ足を踏み入れるとすぐに、もう一つの思い込みが打ち破られました。雪の多い地域にある森だから、きっとブナ林が広がっているだろうと想像していたのです。ところが、目の前に広がっていたのは、シラビソ、コメツガ、クロベといった常緑針葉樹林でした。「この森は、およそ9000年前に乗鞍岳の剣ヶ峰直下から流れ出した溶岩によって形成されました」と、渡邉さんが乗鞍岳の方向を指差して説明してくれました。不意を突かれるような言葉でした。火山の話が出てくるとは予想していなかったのです。その一言は、この後目にする全ての景色を繋ぎ合わせていく重要な手がかりとなりました。シラベ沢に近づくと、岩の隙間からは水がこんこんと湧き出ていました。「この沢の水は、すべて湧き水です」とのこと。雪や雨が溶岩の層へと染み込み、伏流水となって、森のあちこちから湧き出しているのだそうです。水量の変化が少ないため、沢の岩は美しいコケに覆われていました。「水を汲んでもいいですか?」と丸山さんがボトルを取り出すと、渡邉さんは「後で、もっと湧きたて新鮮な水場にご案内しますよ。持ち帰るなら、そちらの水がお勧めです」と笑顔で答えました。