沢野ひとし氏、81歳。山歩きの変化と新たな山の楽しみ方
山の魅力は、登ることから眺めることへ
加齢と共に変化する山の楽しみ方:81歳の沢野ひとし氏が語る新たな山の世界
イラストレーターであり、エッセイストとしても活躍する沢野ひとし氏は、10代の頃から国内外の山々を歩き続けてきました。しかし、81歳になった現在、彼の山との付き合い方は大きく変化しています。『本の雑誌』の表紙イラストや『山のごはん』といった山に関する著書を多数手掛ける一方、「ジジイシリーズ」も人気を博しています。今回、新刊の刊行を機に、彼がどのようにして山と向き合い、その楽しみ方を変えてきたのか、その思い出と現在の山歩きについて語っていただきました。
若かりし日と今の山歩き:年齢がもたらす登山への影響
沢野氏によると、81歳になった現在、若い頃と比較して山歩きのスタイルや楽しみ方が大きく変わったと言います。特に70代後半からは下山時の恐怖を感じるようになり、60歳頃までは困難な場所でも躊躇なく進んでいた自分が、今では安全を最優先するようになったと振り返ります。例えば、最近登った標高1643mの飯盛山では、往復2〜3時間の行程でも下りの厳しさを痛感したそうです。木に掴まれる場所があれば良いのですが、遮蔽物のない道では不安を感じ、視界の狭まりも相まって、広い道でないと安心して歩けないと語ります。
安全対策と新たな視点:山との共存術
安全確保のため、沢野氏は常にザックにストック2本を携行していると明かします。これは山に限らず、自宅外で飲酒する際も同様だと言います。駅の階段では足元を慎重に確認しながら最後に降りるなど、日常生活にもその配慮が及んでいます。彼は「山だろうと人生だろうと、大事なのは下りですよ」とユーモラスに語り、安全への意識の高さを強調します。最近では山の訪問頻度は減少しましたが、3年前に信濃川上に購入した山荘で、八ヶ岳や瑞牆山、金峰山などを眺める時間が増えました。若い頃はただひたすら登るばかりで、山をじっと見つめることはなかったものの、今はその景色に魅入られることが多いそうです。かつての山行の記憶は薄れても、ただ黙って景色を眺めること自体が深い満足感を与えてくれると言います。先日、県界尾根から八ヶ岳に登った際も、山頂には向かわず、1時間ほど登った場所で30分間景色を堪能し、下山しました。その時、「こんな場所から奥秩父の山が見えるのか」と新たな発見があり、この穏やかな心の余裕が、年齢を重ねたからこそ得られたものだと微笑みました。